江戸川乱歩


乱歩を始めて読んだのは、少年探偵団シリーズだった。そこにくりひろげられる怪人二十

面相対、名探偵明智小五郎、及び少年探偵団の対決。夢中になって読んだものである。

そして当然、探偵団ゴッコ。 秘密の隠れ家を作ったり、仲間にしか解らない暗号を考え

たり、時には顔が恐いというだけで、サラリーマンの後を付けアジトを突き止めたり。 

我が探偵団の武器といえば銀玉鉄砲と2B弾。さらに我々の作った落とし穴は、町内の子

供達の間で恐怖の的であった。 ありとあらゆる絶対触りたくない物を投げ入れ、仕上げに

みんなでオシッコ。 小林少年にくらべ、はなはだしく品にかける我々のリーダーは、

そこにバッテリーで電気を流そうと提案したが、それはさすがにみんなの反対にあった。

これは断言できるが四十をとっくに過ぎた被害者達は、その体験を生涯忘れる事はない

であろう。今でもくるぶしあたりをさすりながら、遠くを見る眼になっているに違いない。


そんなわけで少年探偵団シリーズは、全国に挙動不審の小学生を無数に発生させたわけ

だが、当時の私にとって江戸川乱歩というと、明智小五郎の背後にひかえる探偵団の会長

のような存在であり、開放されたパノラマひろがる乱歩先生のお屋敷で、心行くまで遊ばせ

てもらった、そんな子供の一人だったといえよう。 そして探偵団も自然消滅のころ、さらに

魅力的な[屋根裏の散歩者][人間椅子][陰獣]などの、大人向け世界の読者となっていく。

人によっては、乱歩はデビューして数年でトリックのネタが尽き、後半は子供っぽい物しか

書けなかったという。しかし乱歩以外のいかなる方法で、あんな妖しい輝きを帯びた夢を読

者に与えろというのであろう。 私は今はやりの超能力や遺伝子ではサッパリ燃えないので

ある。

「現世は夢、夜の夢こそまこと」とは乱歩が色紙に好んで書いた言葉だが、子供時代から

夢や空想にふける現実味に欠ける人物だったようで、人気作家になった後も何度となくフ

ラリと放浪し、編集者を困らせたりしている。迫る締め切りに、オチオチ夢も見ていられない

という事なのだろう。 そして夢見の放浪から帰ると「押し絵と旅する男」などの傑作をものに

するのであった。

ところで、大の掃除ぎらいの私は、それでもたまに心を入れ替えて、大掃除を決意すること

がある。そんな時本棚の埃を払いながらつい乱歩を何ページか読んでしまって、気がつく

と夜になり、次の日は朝から続きを読み、結局、乱歩週間が始まってしまって、せっかくの

改心が台無しになってしまう。私はいったい何度こんな事をくり返すのであろうか。小学校

の図書室で、探偵団を読んでいてチャイムに気づかず、大目玉を食らった事も思い出す。

乱歩は現実から逃れるため放浪したが、私には乱歩全集があるのだ。
    

タウン誌 深川 (クリオプロジェクト)より