無限連鎖地獄
乱歩の作品に『鏡地獄』という作品がある。内面が鏡面になっている球体
に入った男が発狂してしまうという話だが、なにもそんな大掛かりな装置が
無くても、クレンザーの箱で充分という話し。 ※ただし想像力と集中力が
必要。
子供の頃の話しだが、台所にクレンザーが置いてあった。その紙製のパッ
ケージには、エプロンをした女性がそのクレンザーを持って微笑んでいる
イラストが描いてあった。イラストの中のクレンザーにはやはり、その女性
がそのクレンザーを持って微笑んでいた。勿論簡単なイラストであるから
細密に描かれているわけでは無いのだが、子供の私の想像力には、イラス
トのクレンザーにも女性がクレンザーを持って笑っているのが見え、そのクレ
ンザーにも女性がクレンザーを持って笑っているのが見え、そのクレンザー
にも女性がクレンザーを持って笑っているのが見え、そのクレンザーにも女
性がクレンザーを持って笑っているのが見え…。
そのまま見つめ続けたら無限連鎖地獄に引きずりこまれていったであろう。
私は恐怖のあまりクレンザーの箱をゴミ箱に叩きこみ、無限反復世界から
脱出した。ただし、台所のゴミ箱に捨てたおかげで、母親に見つかり完璧
な地獄からの脱出とはいかなかった。